富士フイルムがLTOテープ増産に向け投資を発表 AI跋扈の時代にデータ保護の救世主となるか

 2026年10月29日、富士フイルム株式会社は「データストレージ用磁気テープの製造能力を5倍に増強」と題されたプレスリリースを発表。この中で同社は、自社の保有する神奈川事業場小田原サイトに約100億円の投資を行うとされている。

 今回投資対象となった小田原サイト(工場)が製産しているものは「データストレージ用磁気テープ」という代物である。その生産能力を2025年比で5倍以上に引き上げるため、今回の投資が決定されたとの事だ。

 本記事では増産対象となった、ストレージ目的で使われる磁気テープの再注目ぶりを追いかけてみる。

頼れるのは「物理保管」

 昨今巷を賑わす話題として、企業からの情報流出がある。特にハッカー達が企業の情報を保存しているストレージへアクセスし、情報を「拉致」する事件は耳にしない日がない程に増加している。

 その背景にはAIを活用した言語の壁の突破があるとされており、これまで人力では難しかった日本語等の言語にも容易く対応できる様になったという見方が通説だ。

 ではこういう犯罪に対し、「そもそもどうしてデータが盗まれてしまうのか」という点を考えてみれば、それは実にシンプルな話である。ワークステーションやサーバー等に使用されているディスクドライブは、常時通電しておく必要があるためだ。

 SSDではその構造上、内部のフラッシュメモリ(NANDセル)に電荷を蓄えることで、データを保持しつづけることが出来る。HDDは磁気記憶装置であるものの、長期間放置するとモーターの軸受け(グリス)が固着してしまい、正常な動作が行えない可能性が出る。いずれにせよデータへのアクセスは通電と常時使用が欠かせない仕組みなのである。

 だがこういったデータは場合によっては「更新は行わないが、格納し続ける必要がある」ものもある。それを常時稼働させネットワークに接続している環境に置く事は、リスクとなり得るのである。

 そこで今回の主役であるLTO(Linear Tape-Open)テープが登場する事になる。このテープは「物理保管」が出来る記憶媒体なのである。

温故知新はデータ保護の切り札

 このLTOテープは富士フイルム株式会社が製産している製品である。そして先述した通り、このテープは物理的に外して保管が可能な、カートリッジ式の記憶媒体だ。馴染みのある人は「フィルムテープ」「ビデオテープ」「カセットテープ」の様な物をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれない。

画像:富士フイルム 公式サイトより

 この製品最大のメリットは、このメディアが持ち出し可能なビデオテープの様に保管できる事にある。必要な情報を書き込んだり読み出したりした後は、再生装置から外して通電無しの状態で保管可能なのだ。いわゆる「エアギャップ」という、コンピュータやネットワークをインターネットや安全性の低いLANなどの外部ネットワークから完全に切り離し、物理的または論理的に隔離するセキュリティ対策が取れるメディアである点が、このメディアの「防御力」を確かなものにしている。

 使用には専用の再生装置の他に、LTFS(Linear Tape File System)という、OSのIOプログラム上でファイル形式でLTOテープに記録されているデータを管理できるソフトウエアが必要となってくる。だが逆に言ってしまえば、これを通さないと正常にデータを読み取ることが出来ない。これもセキュリティ上では強みとなる。

 またデータ容量も最も保存可能な製品で40TB、2.5倍圧縮時は100TB保存可能である。転送速度は400MB/秒、圧縮時は1,000MB/秒とそこそこ速い。磁気記憶媒体だからといって、決して使いにくい製品ではないのである。更に温度などの環境要件も重なるが、保存期間は50年。加えて20000回までデッキにセット可能な耐久性も備えている。

 もちろんこれだけ頑丈なら持ち運びも可能だ。一時期「新幹線でSSDを運んだ方が速い」というジョークの様な本当の話がネット上で見られたが、これもまた例外ではないし、場合によってはTBあたりではSSDよりも高い効率を出すかもしれない。新幹線はデータ転送の最優秀選手なのでは

 まさに「物理的に隔離する程のセキュリティが必要で、かつ大容量のデータを長期間保存する」というニーズに合った代物となっている。

LTOテープの弱点

 ただし一見万能選手であるLTOテープにも、幾つか弱点が存在する。

 まずこの記憶媒体がテープ式であるということだ。磁気テープへの情報の記憶は、ビデオテープなどの媒体に触れたことがある人ならば分かる通り「最初からデータを検索していく」方式なのだ。目的のデータにたどり着くには「早送り/巻き戻し」が発生し、比較的時間が掛かるのがネックである。

 先ほど挙げた保管についても、きっちりと基準を守れなければ製品の保証年数よりも短いスパンで交換が必須となる可能性は高い。その程度にはデリケートな製品なのである。

 またテープ同士における互換性があまり高くなく、再生装置とテープのバージョンが1セットであると考えた方が、製品導入が楽な程である。現に同社のLTO-10は1世代前の再生装置では再生が行えず、ッ最新の再生装置を買う事で初めて利用可能となるのである。

世界で導入される「アナログな物理的セキュリティ」

 とはいえこれらのデメリットを全く気にしない企業などであれば、この製品はデータ保護に対する選択肢として機能する。既に幾つかの超大手企業をはじめ、様々な企業や団体が導入を行っている。公式サイトでは、MicrosoftやIBMなどでの導入実績が語られている。

 一見するとテープ式というアナログかつレガシーな技術だが、それこそがデジタルかつ最先端の脅威から情報を守る防波堤として機能する。その背後には富士フイルム株式会社の高い技術力があるからこそ、この製品のソリューションが高い品質で実現しているのである。最先端を追うのも確かに有効かもしれないが、身近にある意外な技術にも素晴らしい可能性が秘められていると感じさせる動きである。

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