「80億分の1」に見る人生の縮図 慈悲なき世界でどう生きるかが話題に

 最近では流行り続けて、もはや擦り切られる勢いの「異世界転生モノ」ジャンル。その奥底にあるのは「生まれ変わって別の人生を歩めたら」という願望である。

 ゲームジャンルとしては「シミュレーションゲーム」という区分で、古くから愛されてきた。

 この願望をある種生々しく再現した作品が「80億分の1(1 in 8 Billion)」。個人開発者であるJin’s Earth氏がAIを用いて制作したゲームだが、これが話題を呼んでいる。

 その内容は「80億人のうちの一人として人生をおくる」というものだ。そしてそこにあるのは「あったかもしれない、誰かの人生」なのである。この記事では同作を軽くプレイした上でのレビューを掲載する。

ままならない人生の生き方

米国ヒスパニック系の家族に生まれて

 公式サイトから「生まれる」選択をすると、世界のどこかの家庭に生を受ける。デフォルトでは2026年生まれの子供だ。

 今回はアメリカの「Ricardo Herrera」という男の子であり、ニューヨーク在住でキリスト教徒の中流家族に生を受けた。

 このゲームはこの画面のように「現在の年齢」「本人の能力値」「今年伸ばしたい能力」「人生の記録」などが表示されている。プレイヤーは能力値上昇の方針、そして人生における決断に介入することになる。

 この「犬を飼いたい」というイベントもその一つだ。幼少期から犬と共に暮らす生活が出来るかどうか、ねだっても断られる可能性もある。

 そして成長すればこの様な「悪い誘い」も増えてくる。タバコ、酒、あるいはギャンブル、違法行為。暮らし向きを良くするため、ストレスから逃げるため。その理由は様々だが、プレイヤーはそれに介入するか否かを「選べる」。

進学と上手くいかない社会人としての生

 なんとかRicardoは大学を出たものの、本人の専攻が体育学であったためか就職出来ず。その後電気工事士として社会人生活をスタートさせる。31歳の頃には結婚後初めての子供を授かり、ニューヨーカーとしては貧しいながらも慎ましやかに生活を送っていた。

 なお、お金があればそれを使うことも出来る。健康を増進させたり、積極的に旅行に行ったり、転職のつてを探したり。人によって様々だが、お金を活かせるタイミングで使うのも大事な人生の選択となる。

 しかし34歳の頃に色々と苦難が重なった結果、彼は薬物に手を出す事になってしまう。治療費との戦いは、その後の人生の風向きがここで変わってしまったのかもしれない。

 その後運送会社の社長という話を持ちかけられるが、この事業は立ち上げられても軌道に乗る事が無かった。事業を失敗したうえでの莫大な借金、購入した家のローン、そして薬物依存との戦い。70代という年齢に差し掛かっても、彼はカネの影につきまとわれた。

生を終えて

 85歳にしてRicardoに最期の時が訪れる。死因は慢性腎臓病。最後まで借金に悩まされたものの、妻に見送られる事に。孫や友人たちがその旅立ちを見送った。

 生を終えるとこのように結果を簡単に表示した画像と、より詳細なリザルトの画面が見られる。人生においてどれくらい海外に行ったか、あるいは資産額がどれくらいかといった情報を見る事が出来るのだ。

 さて、ここまでが「普通に人生をおくれた者」の生涯である。いわゆる人生ゲームの様なシミュレーションゲームなのかと思った読者の方もいるだろう。そういう方は次の項目を見ていただきたい。

無慈悲さに包まれる世界

1歳という壁

 次の生は0歳の「Sandeep Jha」という男の子。3歳の兄がいて、家庭は母親によるシングルマザーながらも裕福。パキスタンという国ながら、人生は順調そうだ。

 だが彼に訪れたのは突然の死である。死因は「先天異常」。誰のせいでもない、彼に埋め込まれた砂時計の避けようの無い枯渇であった。

 結果の画面によれば、パキスタンにおける児童のおよそ8%が先天異常を理由に亡くなっている。

 もう一人、ザンビアの「Refilwe Tembo」の人生も見てみよう。

 彼女も1歳を迎えられずに亡くなっている。家庭としては問題が無いにもかかわらず、何某かの理由で栄養失調となり、その生を閉じた。ザンビアにおいての0歳児のおよそ3%がこれで亡くなるとされている。

人生を見守るという心の整理

 あくまでAIによる統計を元にしているうえに、プロパガンダ的要素を含んでいないわけではない。とはいえ、このシミュレーションゲームは「理想の人生を歩めるゲーム」ではない。そこに横たわるのはどこまでも無慈悲な生と死であり、それは突然に訪れるものなのである。

 医師として莫大な富を残し、100歳まで生き、海外にも多く旅をし、充実した人生を送る者もいる。

 一方では、0歳にして生を閉じる者もいる。

 家族のために身を粉にして働き続け、ようやく借金を返せたと思ったら呆気なく旅立ってしまった者もいる。

 それ以外にも、時代によっては戦乱や徴兵、あるいはテロなど様々な要因でその生を半ば強制的に終える事になる人々がいる。SNSではそういった人生に対して、様々な声が上がっている。

 80億分の1は、こちらのページから無料でプレイ出来る。どこかの誰かの生涯を、慎ましく見守ってみてはいかがだろうか。

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