SNSサービス「X(旧称:Twitter)」にてとあるハッシュタグを巡り混乱が生じ、それを解決に導きそうな一手が話題となっている。クリプトン・フューチャー・メディアが発売するバーチャルシンガーソフトウェア「KAITO」を用いて、動画投稿者であるrenée氏が10月8日にX上に、10月9日にYoutubeとニコニコ動画に投稿した「シンデレラガール/King&Prince-Covered by KAITO」が大きな注目を集めているのだ。本記事では動画を取り上げつつ、元々のハッシュタグを巡る話をフィーチャーしてみよう。
今も現役、バーチャルシンガーの「KAITO」
まずは以下の動画を見ていただきたい。それぞれ内容は同じものであるが、Youtubeとニコニコ動画それぞれのリンクを掲載する。
この楽曲はタイトルが示す通り、アイドルグループである「King&Prince」の楽曲「シンデレラガール」を、ソフトウェア「KAITO V3」を用いて歌唱させたものになる。VOCALOIDや他の合成音声ソフトウェアをご存知の方は既に耳にタコではあるだろうが、これは後々大事な要素として取り上げる。
X上でのポストは投稿者の意向により既に削除されており、楽曲に関する著作権契約がしっかりしたYoutubeやニコニコ動画にて改めて公開を行った形となる当楽曲。KAITOのパフォーマンスの高さに多くの視聴者が黄色い声援を浴びせる事となり、この動画を投稿したrenée氏は「ノーベル平和P」というプロデューサーネームをあだ名のようにつけられる事となった。その背景にあるのは、「歌番組に出るようなアーティスト」と「合成音声ソフトウェア」の認知の違い、そしてSNSがマーケティングツールと化した事に対し吹き出した問題点と対立構造だ。
「KAITO」と「髙橋海人」のバッティング
事の起こりは2026年10月3日に、King & Princeのメンバーの一人である髙橋海人氏が「KAITO」名義でソロ活動をスタートさせたことにある。同日にKAITO公式YouTubeチャンネルと公式TikTokも開設されており、その流れでX上にも話題が波及することとなった。
そこで問題となったのが、ハッシュタグの使い方だ。
SNSであるXでは、投稿前に#の文字を付けることで、そこに続く文字列をラベリングし検索の補助とする「ハッシュタグ」機能がついている。これは日々膨大な話題が投稿されるSNSにおいて、特定の項目の話題を見つけやすくするというものだ。
バーチャルシンガーソフトウェアのKAITOは2006年のリリース以降、さまざまなユーザーに触れられ、彼らはニコニコ動画やYoutube、Xにて歌唱動画やファンアート、MMD作品など様々なコンテンツを公開してきた。その公開対象はもちろん全世界に向けてのものであり、誰でもアクセスすることが可能なファンメイド作品が世界的に作られている状況でもあった。まあブーメランパンツ履いてマラカス振ったりしねばいいのにって楽曲あったりネタ枠でイジられることも多いんですけれどね。
特に最近では投稿作品が古くから存在していたニコニコ動画において、海外からのアクセスが行えない状態が続いている。Youtubeの検索性の悪さを考えれば、海外からのユーザーはKAITOに関する情報をX上で追う頻度が増えている状況だ。
クリプトン・フューチャー・メディアが提供する投稿サイト「ピアプロ」もあるにはあるが、海外ユーザー発の音楽タグ「海外組」は22作品と多くなく、しかも楽曲に限定されている。ニコニコ動画ではKAITOタグ上で動画の内容こそ問わなければ47,337件の動画が投稿されている。X上で10月2日以前のKAITOタグでの検索結果は件数こそ不明であるものの、コスプレや新作MV、ぬい活画像など様々な作品が投稿されている。
さて、先述したように髙橋海人氏がソロ活動をKAITO名義で行い、その宣伝のためInstagramやTikTok、そしてXでもハッシュタグ「#KAITO」が用いられる流れとなった。だが創作畑やサブカルチャーに親しいユーザーが比較的多いXで、このハッシュタグを用いた事がまずかったのである。
こちらも先に挙げたように、既に年近い歳月を「#KAITO」というタグで作品を共有してきたユーザーがいるフィールドである。最古の投稿として確認出来るのは、2013年1月5日のKAITO同士がにゃんにゃんしている画像だ。おいちょっと待ってくれすまないがホモ以外は帰ってくれないか!!
盛大にやおいしているのはさておいて、仮にここを起点とすると13年以上は同ハッシュタグが用いられており、中には既に引退あるいは逝去されたユーザーの投稿もX上に残されている。そこに髙橋海人氏の側のハッシュタグ使用が「後から乗っかる」形となったのだ。もちろん同氏をはじめプロデュースに関わる企業や広告代理店が、SNS上でのハッシュタグの事情についてどこまで調べていたかは定かではない。
そして髙橋氏が今回バーチャルシンガーソフトウェアの「KAITO」について言及したと思わしき動画が拡散され、その認識にやや齟齬があるのではないかということが取り沙汰されるようになった。
「KAITOはあなただけのKAITOである」という再発見
上記のPost内の動画と前後して、この事態を静観・精査していた一部アカウントからも疑問の声が挙がり始める。
この見方が拡散していくにつれ、KAITOというのは「単一のアーティスト」ではなく「無数の人が作曲者であるソフトウェア」である事が浸透。ならびにXにおける#KAITOというハッシュタグが「単なるレジェンド的アーティストの装飾」ではなく「多くの個人が同一題材の創作物で繋がり合うためのネットワーク」である事に気づき始める流れが生まれ始めたのである。
そしてその流れでX上に投下されたのが、『【歌わせてみた】シンデレラガール/King&Prince-Covered by KAITO【ノーベル平和P】』なのである。KAITO伸びやかな歌声に魅了されたユーザーの多くが「KAITOというのは歌い上げるためのソフトであるし、『自分だけのKAITO』がその人の数だけある」という認識があっという間に広まっていった。その影響力の強さとタイミングの良さから、投稿者であるrenée氏へノーベル平和賞にあやかって「ノーベル平和P」とのあだ名がつけられる事となったのである。
なお余談ではあるが、中には「それならKAITO買ってやろうじゃねえか」と勢いのままにKAITOの購入に至った者まで見られる。いいぞメロつけ
マーケティングの稚拙さがあらわになったモデルケース
今回の宣伝先の一つであるInstagramやTikTokでは特定の個人の修飾子としてハッシュタグを付ける流れが見られるが、いわゆる「ライブ的にハッシュタグをつけて短文のPostを複数のアカウントが多く投稿し、めちゃくちゃに盛り上がる」というのは、Xのキャンペーンについてのガイドラインでは明確にNGと指定されている。
まったく同じ、またはほとんど同じ内容やリンクを投稿することは>x<ルール違反であり、検索の品質を低下させる恐れがあります。同じポストを何度も繰り返すように推奨するルールは設定しないでください(「一番多くリポストした利用者に賞品を提供」など)。あなたが主催したキャンペーンや懸賞が原因で、利用者が>x<検索から自動的に除外される可能性があります。(自動翻訳)
許可されていません
同一または実質的に類似のコンテンツとやりとりする複数のアカウントを運用すること、または、たとえば、複数のアカウントを作成して、コンテンツやアカウントの重要性を誇張したり操作したりすること:
- トレンドのトピックやハッシュタグを「ブースト」すること。
- 同じポストやアカウントに反応したり、同じ投票に参加したりすること。
- @ポストや返信機能を悪用すること。
- エンゲージメント機能を悪用して、自分のいずれかのアカウントを拡散すること。
クロスポストなどにより、実質的に類似または同一のコンテンツをポストする複数のアカウントを運営すること。
- 複数のアカウントで同一コンテンツを同時にポストすること(ただし、他の言語に翻訳された同一コンテンツについては許可されています)。
- 同じトレンドトピックやハッシュタグに類似または重複したコンテンツ。
ここまでお読みいただいたなら分かるだろう、身も蓋もない言い方をしてしまえばハッシュタグの設定から盛り上がりの想定までがことごとく「甘い」見通しであったのだ。それを示すかのように、Instagramのハッシュタグ「#kaito」は現状そこまで髙橋海人氏の動画が大勢というわけではなく、ソフトウェアの方のKAITOのコンテンツが多くを占めている。一方でTikTokはまじっく快斗が混じってくる、どういうことだ…?
この状況を見て分かる通り、「ハッシュタグで異なる要素の情報が混ざった際に、それぞれの情報だけを求めているユーザーがアクセスする際のノイズが増える」結果となった。特に芸能活動では名義被りは知名度と影響力に直結するため、SNS全盛期である昨今では事前のリサーチが非常に大きなウエイトを占める。というか髙橋海人氏の情報調べようと思ったら、アイスだの裸ブーメランパンツマフラーの男だのが混じってくるっていうのは新手の精神攻撃になるって分からなかったのか
最後に今回の事案を受けて、10月5日時点でのXにおける「初音ミク 公式」アカウントのPostを引用して記事を締めたい。
