2026年10月14日から16日にかけて、千葉県千葉市の幕張メッセにて「Japan Mobility Show Bizweek 2026」が開催された。これは今までのJapan Mobility Showとは毛色が異なり、主にビジネスターゲット向けの展示会イベントとして企画されたものである。
そんな中でミドルウェアの開発企業であるCRI・ミドルウェアはユニークな展示を行っていた。それは自動車の内装、それもインターフェース面のカスタマイズを行える「中痛車(なかいたしゃ)」というソリューションだ。本記事ではそこに至る流れやサービス内容にフォーカスし取り上げていく。
痛車文化とカスタマイズの制約
日本の自動車文化を語る上で外せないのは「痛車」の存在だ。トラックであればゴテゴテに装飾されたデコトラがその筋の作品として有名であるが、個人所有の自動車においても派手に飾り付ける文化が息づいている。
車検が通るか分からないグレーな改造パーツを用いた奇抜な車体、あるいはデザイン性を強く押し出した車体のペイントやデカール、もしくは車内の内装をこと細かくカスタマイズするなど、ともかくいろいろな所を自分流に改造し「見せていく」痛車は国内外を問わず有名になっている。
しかし既存の自動車ではどうしても手が出せなかったところが一つある。それがスピードメーターのようなインターフェースである。これはアナログであればメーカー純正の製品を改造する場合、配線からメーターの動きの調整までを文字通り改造する。その後車検基準に一致させなければ公道を走れないという大きなリスクを背負う上に、インターフェイスがデジタル化して以降はほぼメーカー公式のまま弄る事は出来ない状態となっていた。
そこに新しい流れを吹き込む形となったのが、CRI・ミドルウェアの中痛車なのである。
「見せるか見せないか」という上での「凝った上でニーズが無かった」車載コンテンツ
かつてゲームメーカーで各種製品の開発に携わったという担当者の方からは以下の様な話が伺えた。
「痛車というのはいわば『見せたい相手がいる、自己PR』なんです。だからこそ車を飾り付けて、見せて来る文化なんですよ。でも、ドライバーの中には『推しキャラはいるけど、そこまで派手なデコレーションとかは興味がない』という層もいるはずです。そういった方に向けて、推しの映った自動車のインターフェイスを提供するソリューションがこれなんです」
実際に開発版として展示されていたものは、スマートフォンを経由して車載の液晶インターフェイスの表示を置き換える形になっている。直接車両のコンソールで操作するものではないという点についても、目から鱗の補足が行われた。

「自動車メーカーは様々な車載コンテンツを制作していますが、本文はあくまで自動車生産にあると思います。コンテンツ作り、維持は彼らにとって実際のところ負担になっているのでは?と考えました。そこで我々は自前のクラウドにデータをアップロードし、簡単にダッシュボードを着せ替え出来るようにしました。ゲームでいう『スキン』に近い形です」
そのうえであくまで制御はスマートフォン、適用先を車載のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)に分離することで、これまで車載コンテンツとして制御を行う必要のあった領域が切り分けられた形となった。
「これまでメーカーは『ゲームや映像などのリッチなコンテンツ』を、ドライバーに楽しんでもらおうと精魂込めて作ってきたと思っています。ですが、それを運転中に参照している人がどれだけいるのかというのは、以前から指摘されてきた問題点です。車内においてもスマートフォンの利用が一般化しており、運転手としてもそこまでインターフェース側に長時間目をやる事はまれです。ですので『推しのイラストが描かれたインターフェース』『推しの声で車の起動音が出る』という事を軸にした、簡単なコンテンツでもドライバーとしては十分なのではないかと考えたのです」
実は実用性のある観点から生まれたアイディア
ではこの中痛車、可愛らしいデザインだけかというとそうではなく、シンプルなスピードメーターももちろん存在する。そして開発当初はこちらの方向性が主軸であったのだという。

「実は元々、『配送業者など1日に複数の車両を運転する必要があるドライバー向けのインターフェースを作る』というアイデアからスタートしたんです。インターフェースを希望のものに統一し、走行距離であったり、燃費であったりといった情報をより分かりやすく表示する、事業者向けの見やすいインターフェースというアプローチでした。ですが、そこでふと『これ、おシャレに着せ替え出来るのでは』と思い立ちまして、こういった形になりました」
確かにそういった事業者向けの用途は画期的である。だが、一足飛びに「液晶の表示をこう変えられます」といってもその機能の良さを理解するまでには、若干の時間を要する事になるかもしれない。そこでビジュアル重視に寄せた形で、かつ高いカスタマイズ性を示したソフトウェアを提示するのは良いアイディアと言える。同社のミドルウェア開発技術の最たる一例だろう。
サードパーティによるコンテンツクリエイトも視野に
そしてこのサービスは、CRI・ミドルウェア側が登録されたコンテンツを監修する形で、多くの企業・団体が自社流のスキンや音声を登録するスタイルを目指している。登録画面は非常に簡単で、それこそ高解像度のインターフェース向けイラストなどを用意するだけでもOKという懐の深さだ。
「今はLINEスタンプなども流行っていますよね。これが何故かと言えば、コンテンツ提供者側でも簡単に内容を実装出来るからです。そしてサービスの作りも、IPを持っている公式側のデザイナーやクリエイターといった方々も対応出来るものにしています。難しくしたら、それだけで仕事が圧迫されてしまいますから」
実際のところ、先述したようにリッチなコンテンツを作ろうと思えば人も費用も時間も掛かり、自動車メーカーの本業を圧迫してしまいかねない。そして何より自社の本流から技術的に枝分かれしたサービスであっても、需要の薄いものをメーカー側が維持し続けなければいけないという、本末転倒の事態に陥る。以下の事例などはまさにその典型だ。
日産自動車 「Nissan Message Park」 Nissan Message Parkサービス終了のお知らせ
https://www3.nissan.co.jp/connect/information/251210.html
そうした中で、メーカー側が共通化されたインターフェースを軸に、メーカー発あるいはサードパーティ発の着せ替えや音声コンテンツを提供するというのは、ローコストながら高いコマーシャル性を発揮する可能性はある。なんでも今では「ゲーム機が10億台に対して、車載液晶パネル付きの自動車は12億台」と言われている。ゲーム以上にお手軽に「推し」を押し出せるコンテンツを展開しやすい土壌があるのだ。

このサービスの普及に向け、水面下では色々動いているのだと担当者は語る。是非このサービスが浸透し、よりお手軽に「自分が乗る車を推し色にする」文化が根付いて欲しいところである。
